世界は「ファースト」によって分断されつつある。
米国大統領は「アメリカンファースト(アメリカ第一主義)」を掲げ当選した。彼は、世界のトップランナーだった米国の力が低下する中、自国経済建直しなどを最優先すると明言したのだ。米国内には、この主張に賛同した人、心くすぐられた人が多く存在した。「ファースト」は、現在のアメリカにとって魅力的な一言であったのだ。今や傾向は、ヨーロッパ、日本においても見受けられる。
人間誰しも「あなたが一番」と言われて悪い気はしない。ましてや自信喪失の日、誰かが「あなたが一番大切だ」と言ってくれたなら、その人はどんなに喜び、安心することか。結果、「ファースト」と語るリーダーに大衆の期待が集まる。ポピュリズムである。
だが「ファースト」には落とし穴がある。「ファースト」と宣言した途端、「セカンド」にされる人、「サード」にされる国が登場する。人も社会も分断されるのだ。現に大統領の「ファース」は、イスラム教国七か国の入国禁止を伴う宣言であった。
東京都知事も「ファースト」と言う。だが「都民ファースト」と言っても六本木の高級マンションに住む人から木造モルタルアパートに暮らす人、末はホームレスに近い暮らしの人まで東京都には存在している。恐ろしいほどの格差の現実を無視し「都民」と一括りにして良いものか。みんな「ファーストと言われている都民は自分のこと」と信じているが、少し冷静になった方がいい。
先日、復興大臣が「これが(大震災)まだ東北で、あっちの方だったから良かった」と発言し辞任した。呆れてものが言えない。これは大臣の資質云々の問題ではなく、人間性を疑う事態であった。ここにも「ファースト」が見える。大臣には東京あるいは首都圏が「ファースト」だったのだろう。「二の次、三の次の東北」で良かったと彼は言ったのだ。これは永田町の価値観というべきか。あるいはそもそも政治家などというものは自分の事しか考えていないということか。
「自国第一主義者」は自分の事だけ考える。故に移民排斥、EU離脱、保護主義に走る。そして自分以外を差別し敵対視する。在日コリアンに対するヘイトスピーチを行ってきた在特会元会長が立ち上げた政党名は「日本第一党」。マンガみたいにわかりやすい。
経済が停滞し、社会保障が削られ、格差が広がった。この現状に多くの人が不安を覚えている。自尊意識や自己有用感を持てず、多くの人が自信を失いつつある。そんな時「ファースト」は、魅力的に聞こえてくる。しかしこれは悪魔の誘惑なのだ。さらに自分に対して「ファースト」と言ってくれる指導者が素敵に見え、信頼と期待を寄せる。それを知っている権力者たちは、「ファースト」の対象を操りつつ、自分に反する人々を「二の次」とすることで支配を強める。
イエスは言う。「あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、仕える人となり、かしらになりたいと思う者は、すべての人の僕とならねばならない。人の子がきたのも、仕えられるためではなく、仕えるためであり、また多くの人のあがないとして、自分の命を与えるためである」(マルコ福音書一〇章)。イエスは、本当の「一番とは何か」を教えてくれている。
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