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5/16巻頭言「あれから三年―松ちゃん、会いたいよ その➄」

「いや、実は、この方のお世話をしているNPOの代表で、家賃の保証人にもなってまして、保護費の家賃を払って貰わないと大変なことになります」と説明するが、ご主人にとっては、全くのお門違いの訴えでどうしようもない。「わかりました。いや、僕らもそうかなと思ってました。一応ご本人が『絶対だ』と言うもので。失礼しました」と帰りかけた、その時。「その人、どんな人ですか」とご主人が尋ねて下さった。「身長は160センチないぐらいで、小柄、少しひげを生やしていて。おサルさんみたいな愛嬌のある顔をしています」と答えた。するとそれを聞いていたご主人が「あああ、あの人か」と言い出した。「やはり、ご存じですか」と慌てて尋ねる。「ええ、今、店の奥で呑んでますよ」とご主人。「えええええええええええええええええええええええええええええ・・・・」脳髄に衝撃が走ったのを覚えている。
恐る恐る店の中に入る。カウンターの一番奥に3人座っている。その真ん中、見慣れた顔が赤く染まっている。間違いない松ちゃんだ。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。「松ちゃん、なにをしてるのかなああ。あれれ、なんかおかしいなあ」と、我慢し過ぎてこちらも変なテンションになっている。「あああ、奥田さんやああ、あはは」と松ちゃんは全く屈託なく笑っている。だんだん腹が立ってきた。「あのなあ、奥田さんややないやろ。これは一体どうことになってんねん」と大声になる。松ちゃんは一向にこたえていない様子でコップを離さない。「ともかくもう帰るで」と促すと、松ちゃんは「いま、この姉さんが一杯おごってくれたから、これ飲んだら帰るわ」と隣の女性に会釈した。思わず一発松ちゃんの頭をしばく。帽子が店の中に飛んで行った。谷本牧師が僕を「奥やん落ち着け」といさめる。松ちゃんと言えば全く動じず笑顔で呑み続けている。
「帰る」の声に反応されたのか、店の奥から女将さんが出て来られた。「ああ、お帰りですか。そしたら8,300円」。私に金額が書いた紙を渡される。松ちゃんは聞こえないふり。「あのなあ、松ちゃん、これは立て替えられんで。なんぼなんでも」。そして、女将さんに「申し訳ないですが、この人、私の親父みたいな人なんですが、この人の家賃も立て替えさせられてまして、この店の払いまではとても無理です。今日も朝1,000円貸したばかりでして。今後、この人を連れてキチンと払いに来ます。今日のところはご勘弁を」と頭を下げる。「おおええぞ、付けといて」と松ちゃんが相槌を打つ。もう一発しばいたろか、ほんまに。
引き剥がすようにして店から松ちゃんを連れ出した。車に乗った松ちゃんに「ええ加減にせえ」といつもの十倍ぐらいの迫力で迫る。松ちゃんは「さあああ、帰りましょうー!」と元気に言った。本当にこたえない人。翌日、再び松ちゃんの今後に関する緊急総合カンファレンスが開かれることとなった。

つづく

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