社会

10/7巻頭言「首長は、そんなに偉いのか」

 大阪市とサンフランシスコ市が姉妹都市提携を解消することになる。1957年から両市は、60年近く友好を築いてきた。2017年9月にサンフランシスコ市内に慰安婦像が設置され「性奴隷にされた何十万人の女性」と碑文に書かれたことに対して吉村洋文大阪市長が抗議した。その後、この慰安婦像が同市に寄贈された。大阪市長は、これを撤回しない限り姉妹都市関係を解消すると宣言。大阪市長からの手紙には、このように書かれていた。「私や大阪市民の希望は非常に残念ながら、貴殿には届かなかったようです」。確かに「私の希望」は届かなかった。しかし、「大阪市民の希望」はどうなのか。そもそも首長とはどのような存在なのだろうか。
 市民による直接選挙で選ばれるのが市長で、その点では国会議員が選ぶ総理大臣よりも直接的だと言える。しかし、前回の大阪市長戦の投票率は50%に過ぎない。さらに吉村市長の得票率は57%。212万人余いる有権者の3割に満たない得票で市長となった。これが現実である。そもそも半数が選挙に行っていないのが現状で、その責任は大きいと言える。一方で選挙に勝ったからとて決して大阪市民全員を代表しているわけではない。市長は、そんなに偉くない。一方で「大阪市民の希望」が届かなかったと嘆くが、そうでもないと思う。私の知り合いの大阪市民で「慰安婦」問題を積極的に議論している人はいくらでもいる。彼らは、サンフランシスコ市がこの問題を積極的に取り上げたことを前向きに捉えている。大阪は在日朝鮮人が多い。彼らの「希望」はどうなるのか。これに対して10月4日サンフランシスコ市長が「一人の市長が、両市の人々、特に60年以上存在していた人々の間に存在してきた関係を一方的に終わらせることはできません。私たちの目には、サンフランシスコと大阪の姉妹都市の関係は、今日も人々を結びつけている絆を通じて続いているように見えます。(中略)サンフランシスコの慰安婦像は、奴隷化と性的な人身売買の恐怖に耐えるように強制されたこと、そして現在もすべての女性が直面している闘争の象徴です。 犠牲者は私たちの尊敬に値するものです。この記念碑は私たちに忘れてはならない出来事や教訓を思い出させるものなのです。」実にまっとうなことをおっしゃっていると私は思う。悪しき権力者の最大の特徴は、選挙で勝ったという一点で自分が全権委任されたと勘違いしている点にある。私達は、そもそも何も丸投げしたわけではない。私達の意向に基づいて、主権者たる国民、あるいは住民に仕えてほしいと思っているのだ。
 今年のノベール平和賞が発表された。一人は、内戦状態が続くコンゴでレイプ被害にあった女性たちの治療に努める婦人科医デニ・ムクウェゲ氏。もう一人は、過激派組織「イスラム国」による性暴力被害者で、国連親善大使として人身売買被害者の救済を訴えるヤジディ教徒ナディア・ムラド・バセ・タハさん。戦争による性被害のことを多くの人々が考えようとしている。もちろん、その中に大阪市民も多数いる。
 「あなたがたのうちでいちばん偉い者は、仕える人でなければならない」(マタイ23章)とイエスは言う。

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