専務の森松さんと相談したところ「誰も奥田が一人でやっているなんて思っていない。みんな、ちゃんと解っている。だから出れば良いよ。ホームレスの現状などが多くの人に伝わることが何よりも大事だと思うよ」とのことだった。それで取材を受けることになった。
その時の担当デレクターが座間味圭子さん。茂木健一郎さんによる「ファブリーズ座間味」という異名を持つ人である。なぜ、ファブリーズなのかはともかくとして、とても根性のある人だった。2008年12月「プロフェッショナル仕事の流儀」の取材が始まった。一か月以上、ほぼ毎日、朝マイクを付けられ一日中カメラが付いてくる。最初は緊張していたが、慣れるというか、そんなことを気にしていていては仕事にならずカメラの存在を意識しなくなる。
ただトイレに行くにもマイクがついているので音声さんは、さぞ、「いろいろな音」を聞いてらしたと思うが、それに気づくのにはしばらくかかった。後で思うと少々恥ずかしい。電話がかかってくる。「今、NHKが取材にきててね、朝から晩までくっついてて、もうめんどくさいのなんの・・・」と話しながらふと振り返ると座間味さんとカメラ、音声さんがこっちを見ながら笑っておられる。全員、僕の声をイヤホンで聞いておられるわけで・・・・。「あああ・・・・というか、そういう意味ではなく・・・」と離れたNHKチームに合図を送るがもう遅い。以来、トイレに行く時「マイク切ってください」とつぶやいてから用を足すようになった。
取材をしばしば受ける。テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、最近ではインターネット上のメディアなどもある。どの取材者も素敵な方々で、そもそもホームレスや困窮者のことを取り上げるということ自体、その人の価値観や生き様を感じさせる。だからなるべく現場に出会ってほしいし、直接出会ってほしいと思い取材の有無に限らず現場を案内する。何より僕以外の方を取材する時は、当然ではあるが本人に取材者が直接交渉してもらうことにしている。僕が紹介したり、ましてや頼んだりしない。取材対象がスタッフだと私は上司という立場になるし、当事者だと「かつてお世話になった人」になってしまう。となると「断りにくい」からだ。
座間味さん達がやってきた頃、チーム松井は面会作戦を続けていた。「拘置所にいる人だから取材はできないですが、私達の活動が良くわかる場面だから一緒に面会にいきませんか」と誘ってみた。それは「取材のため」というよりかは、松井さんにつながる人を増やすことが重要だと考えたからだ。人はつながりの中で生きていく。問題を解決する専門知識や技術は言うまでもなく重要だ。しかし、それ以上に「つながり」が重要だと私達は考えてきた。伴走型支援は「質より量」。「質じゃなく」などと言うと座間味さんに失礼だが、私も含めてつながりの一つに過ぎない。一人のスーパーマンよりも、多くのつながりの方が上手く行く。それがこれまでの経験から言えることであり、それが「伴走型支援」なのである。
つづく
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