では、元からあった構造的脆弱性とは何か。その一つが「仕事と住居の一体構造」だと言える。抱樸の活動が始まったのは1988この時点で労働者に占める正規雇用の割合は、85%を超えていた。あれから32年が過ぎ、この国の雇用形態は大きく変化した。
1995年、日経連(現在の経団連)は、「新時代の『日本的経営』―挑戦すべき方向とその具体策」を出し、その中で労働者を ➀長期蓄積能力活用型グループ、➁高度専門能力活用型グループ、➂雇用柔軟型グループ に分けることを提言している。➀のグループを管理職や基幹社員として常雇用として、➁および➂のグループは、全て有期雇用。昇給や退職金の対象からも除外した。➁のグループは、当時は「労働者派遣法」に基づく通訳など26の専門業種を前提していたが、その後、派遣法は改定、自由化された。結果、大量の非正規雇用の労働者が生まれることになる。
現在、非正規雇用率は40%となり、実に2,000万人近い労働者が不安定な雇用に就いている。さらに、このような「派遣労働」や「期間雇用」など非正規雇用に従事する人々の中で、「寮付就労」や「派遣先のアパート」で暮らすという、「住み込み型就労」に就く人が一定数存在している。ただ、「非正規雇用で住み込み型就労の実数」の実態調査自体が私の知る限り無いので、実数は解らない。2019年度私が代表を務めるNPO法人ホームレス支援全国ネットワークが厚生労働省の社会福祉推進事業として実施した「不安定な居住状態にある生活困窮者の把握手法に関する調査研究事業」によると、「非正規雇用者で住居が不安定であると本人が認識している住み込み寮等の居住者」の推計人数は11万7,500人となっている。これは住み込み型就労で、かつ本人が住居に対する不安を持っている場合の推計値に過ぎない。
「仕事と住居の一体構造」の常態化が進んだのだが、これは従来の「住み込み型の就労」とは違う。日本が経済成長しており、企業側も正規雇用を前提に終身雇用という日本型雇用慣行を目指していた時代は、働きはじめの一定期間、会社の寮などを活用し、その後貯蓄や住宅ローンなど活用し「自宅」を手に入れることが出来た。だが、今は低成長期であり、かつ雇用が非正規雇用となったことで「住み込み型就労」が一生続くという人も珍しくない。
経済が順調であれば、このような構造であっても問題はないし、ある意味「都合が良い」と考える人も少なくない。だが、今回のように経済活動が行き詰まると、派遣社員などの非正規雇用層が「景気の安全弁」として使われ、派遣切りや雇い止めが増加する。そして「失業」と共に「住居」を失うという事態が発生する。「仕事と住居の一体構造」は、潜在的に「仕事と住居の同時喪失の危険性」を有している。自粛要請以降、次のような仕事と住居がセットとなった相談が増加している。
つづく
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