社会

5/7巻頭言「空っぽのコップ」西日本新聞エッセイ その⑲

(西日本新聞でエッセイを書くことになった。50回連載。考えてみたら、これをここに全部載せると一年かかるので飛ばし飛ばしやります。)
13.5%。これは子どもの貧困率である。7人に1人の子どもが貧困状態だと言える。「等価可処分所得」が貧困率の算出根拠。「世帯の可処分所得(収入のうち税金や社会保険料などを除いた自由に使える収入)を世帯人数の平方根で割って算出する」そうだ。僕は算数がダメで「平方根」と聴くだけでお手上げ。だが「世帯収入が問題」ぐらいはわかる。となると子どもの貧困率を改善するには「世帯収入」を上げなければならない、ということになる。
NPO抱樸では2013年から「子ども家族まるごとプロジェクト」を開始した。学校にも行けない、子ども食堂にも来ない、そんな子どもの自宅を訪問し学習支援を行う。親自身の相談となるとなかなか家に入れてもらえない。しかし「子どもさんの勉強を見に来ました」となると案外入れてもらえた。家に入ると洗濯、掃除がおぼつかずゴミ屋敷状態のお宅もある。お母さんは病気、お父さんは無職。子どもと同時に「家族まるごとの支援」が始まる。
当初「これはネグレクト(育児放棄・虐待)ではないか。だったら子どもだけでも保護すべきでは」と思うこともあった。だが、しばらくしてわかってきた。実は、あの母親も子ども時代に同様の家庭で育っていた。「人は自分がしてもらったことを他の人にすることが出来ますが、してもらってないことは自分の子どもにさえできないと思います」と現場のスタッフは言う。
コップを持つ母親の前で「のどが渇いた」と子どもが泣く。世間は「なぜ飲ませない。ネグレクトだ」と責める。しかし、よく見るとそのコップは空っぽ。前の世代から引き継ぐべきものをもらっていない。「お弁当を作ってもらった。勉強を教えてもらった。遊んでもらった」。そのような経験ができた人は次の人にもできる。これを「社会的相続」いうが、それが成立していない親がいる。だったら相続をまち全体で創ればいい。それが希望のまち。抱樸の子ども支援には130名の子どもとその親がつながっている。

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