(3月20日にNHK視点論点にて話した内容を連載する。札幌の住宅火災事故に関しての番組 その③)
ただ、新たな制度を考える上で気を付けなければならないのは、「利用者」を限定しないということです。既存の制度や施設は、対象者が限定され、縦割り状態になっています。しかし、困窮者支援の現場は、そのような「縦割り」は通用しません。複合的な課題を抱え、かつ家族との縁の切れた困窮孤立状態にある人のために、「間口の広い誰でも入れる施設」が必要です。運営に対する公的助成をするためには、「対象者を誰にするのか」が問題になります。一方で「誰でも引き受けるという総合力や自由さ」を担保できるかが課題となります。「無届け施設」には「貧困ビジネス」が含まれるのも事実ですので、一定の基準を設ける必要があります。ただ、繰り返しますが、欠かせない「条件」は、新たな縦割りが生まれないように「対象者を限定しない」ということです。難しい課題ですが、考える必要があることは、これまでの火災が証明しています。
第二に既存の制度を横断的に利用できる仕組みにすることです。そもそも住宅施策は、国土交通省が担当し、生活や福祉は厚生労働省が担当してきました。昨年10月、国土交通省は「新しい住宅セーフティーネット法」を施行しました。厚生労働省は2015年より「生活困窮者自立支援法」を施行し、現在この法の改定案が国会で審議されています。複合的な困窮状態にある人々を漏らすことなく、両省の施策が一体的に運用できることに期待したいと思います。これまでの「施設」の多くが、住宅とサービスを一体的に運用してきました。一つの施設の中に、同じ課題、例えば介護ニーズのある人だけが暮らしています。それが日本の施設です。今後、人口減少社会になる中で、同じ利用資格の人だけの施設を個々別々に設置することはだんだん困難になります。色々な人が「ごちゃまぜ」に暮らし、個々人にサービスを外付けしていくような仕組みを考える必要があります。居住とサービスを分離して考えることということです。「民間施設」は、この形のものが多いと言えます。
第三に、わが国の住宅政策は、一部の公営住宅を除けば賃貸住宅市場が担ってきました。今後、住宅と福祉の一体的な仕組みを考える上で民間事業者との連携や新たな事業モデルの開発は欠かせません。これらの動きが促進されるために、国は何をすべきかも課題です。
6、最後に
被害に遭われた11人は帰りません。私は、彼らの死と向かい合い、いのちを引き継ぐ責任を感じています。「そしあるハイム」のような「最後の砦」を担ってきた人々は、創意工夫しながら、手弁当覚悟で活動してきました。スプリンクラーがあった方が良いに決まっています。ですが、設置するには多額の費用が必要で、すでに「善意」の限界は見えています。もう、これ以上、悲惨な事件を繰り返さないために、何とかしようと立ち上がる人々の情熱をくじかないため、抜本的な対応を考える必要があると、私は思います。
以上
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