社会

12/26巻頭言「朝日WEB論座 クリスマスプレゼントの本当の意味 その②」

1984年、エチオピアの飢餓を受け、英国とアイルランドのミュージシャンらがBand Aidというチャリティープロジェクトを開始した。「クリスマスがやってきた。もう怖がらなくていい。光を招き入れ闇を追い払おう」で始まる楽曲は、世界で共感を生んだ。
そして、この曲の終盤にある「Do They Know It’s Christmas time at all?―そもそも彼らは今がクリスマスだと知っているのだろうか」との問いかけは、今も私の中にあり続けている。
現在、日本の子どもの貧困率は13.9パーセントだ。相対的貧困率とは、「ある国や地域の大多数よりも貧しい相対的貧困者の全人口に占める比率」(OECD:経済協力開発機構)のことであるが、ここでいう「比率」とは「等価可処分所得が全人口の中央値の半分未満の世帯員を相対的貧困者」とした時の比率を指す。さらに、この「等価可処分所得」とは、「世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出」したものだ。
こう説明されても、さっぱりわからないが、積算の根拠になっているのが「世帯の所得」であることはなんとなくわかる。とすれば、子どもの貧困を改善するためには、子どもたちへのアプローチと共に「世帯まるごと」のアプローチが必要となる。それでNPO法人抱樸では2015年以降、「子ども家族MARUGOTOプロジェクト」を開始した。特徴は「世帯支援」と「訪問型」である。
学校に行けない。子ども食堂にも来ない。そんな子どもの自宅を訪問し、勉強を教える「訪問型学習支援」。学校、児童相談所、生活保護課などからの依頼を受け訪問する。直接、親の相談にのりたいが、孤立状態にある親たちには、「助けて」と言えない人が多い。しかし、「子どもさんの勉強を教えに来ました」となると、比較的簡単に家の中に入れた。
ドアが開くまでに1年かかった家庭もあった。抱樸のスタッフは、無理をせず、ひたすら通い続け、ドアが開く日を待つ。入ってみると中はゴミ屋敷。すでにトイレも使用できない状態で、公園のトイレで用を足していた。他人を入れるのに躊躇(ちゅうちょ)する気持ちは痛いほどわかる。
母親は以前は仕事をしていたが、精神を病み寝たきりに。夜になると子どもたちはゴミの上にブルーシートを敷いて眠る。正直、学習支援どころではない。まずは母親を医療へとつなぎ、部屋の掃除、子どもたちの健康・衛生管理などにスタッフは追われた。
すでに床が腐っている状態で掃除では追い付かず、行政と話し合って公営住宅へ転居をすることに。引っ越しの翌日、スタッフが子どもたちに「何がうれしかった」と尋ねると、「布団で寝られたこと」との答えが返ってきた。このことばに、スタッフは涙した。

つづく

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。