社会

10/11巻頭言「抱樸に関する五つの短文」

➀ハウスとホームは違う―二つの困窮「貧困」と「孤立」

路上に生きる人々は「家」がない、「仕事」がないだけでなく、人との「絆」が切れていた。私達は、「ハウス」と「ホーム」は違うことに気づき、ハウスレスを「経済的困窮」、ホームレスを「社会的孤立」とした。「経済的困窮」には「この人には何が必要か」を考え、「社会的孤立」には「この人には誰が必要か」を考えた。30年が経過し、路上の風景は社会全体に広がった。貧困、格差、そして孤立は常態化した。抱樸は、経済的困窮と社会的孤立に同時に取り組む支援の仕組みを創り続けている。

②家族にすべてを押し付けない―家族機能の社会化

8050(80歳の親に50歳のひきこもり)に見られるように家族は限界を迎えている。自己責任や身内の責任だけでは対応不可能な現実が噴出している。家族の役割を社会が分業できるか。それは抱樸のテーマであった。その最も象徴的な場面は「葬儀」。「葬儀」や「死後事務」を担う家族がいないことが大家の入居拒否理由となっている。抱樸の互助会が「葬儀」を担うことで入居拒否も無くなった。出会いから看取りまで、それが抱樸の目指す家族機能の社会化である。

③断らない―NPO法人抱樸と社会福祉法人抱樸の一体化

NPO法人の強みは「自由」。原則的に何でもできる。抱樸は、その強みを生かし、ひとりとの出会いから創造的に事業を起こし、必要に応じて連携の仕組みを創った。これがNPO抱樸の最大の特徴である。しかし、制度ではない分、専門性に課題がある。抱樸は、専門性を高めるために社会福祉法人抱樸を併設する。社会福祉法人は、制度を基盤とする分、対象者が限定されるが、「広く、自由」なNPO抱樸との連携により「断らない」という在り方を実現する。

④生きることに意味がある―抱樸が考える普遍的価値

「生きる意味ないいのち」が公然と語られる時代となった。抱樸はこれと闘う。抱樸は「生きることに意味がある」と言い切る。共生社会は大切である。だが、共に生きることが出来なくても、ひきこもっていても、「生きているという事実」に意味がある。「生きる意味」や「存在意義」「生産性」が問われる。しかし、その答えを見出せなくても、「今、生きていることに意味がある」と抱樸は宣言する。これこそが、抱樸が最も大切にしている普遍的価値である。

⑤生産とは―抱樸が目指すもの

抱樸は、「生産」を「自己実現」と捉える。生産を金や物を作り出すことに限定する現在の社会において、「その人がその人として、その人らしく生きること」が生産であり、生産性の高い社会とは、「その人に与えられている力や個性が十分に発揮される社会」だと抱樸は考える。誰にも与えられている「かけがえのない自己」を実現するために、抱樸の事業は存在している。しかし、自己を見出すことも、実現することも「独り」では出来ない。抱樸は、自己実現のために社会的孤立と闘い、出会いと伴走を担う。

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