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社会

成長からの解放

選挙が近い。政権選択選挙と言われている。政権選択候補の二つの政党は、「アベノミスだ」、「ユリノミクスだ」と言い合っている。いずれにせよ、あまり変わらないようだが。経済の再生や復活と言われれば心が動く。「あの頃は、良かった。日本を取り戻そう!」と言われる。だが、落ち着いて考えたい、本当に戦後の歩みは幸福だったのだろうか。
経済成長がいつの間にか経済至上主義となり、生産性と効率性が優先されたことによって、過労自殺や過労死が相次いだ。その上、経済を強化するとどうなるのか。「成長と拡大が人を幸せにするか」という問いに対する答えは、すでに出ているように思う。
果たしてお金に縛られない生産性は存在しないのか。「幸福はお金で買えない」。多くの人がこの事にうなずいている。にも拘わらず「いざとなれば金次第」と信じてもいる。不安な時代が与えるものは「現状維持か危険な過去への逆戻り」だ。
話は変わるが、がん細胞とは何かということについてある本を読んだ。人の体はすべて細胞からできている。がん細胞も人の細胞に過ぎない。しかしなぜ、がんが命取りとなるのか。がん細胞が異常であるのは、増殖し続けるからだという。正常な細胞の場合は、体や周囲の状態に応じて、殖えたり、殖えることをやめたりできる。皮膚の細胞は、けがをすれば増殖して失われた細胞を修復し傷口を塞(ふさ)ぐ。そして、傷が治れば増殖を停止することができる。しかし、がん細胞は、そのような体の状態を全く無視し、たとえ体から「増殖中止」の命令を受けてもそれを無視して殖え続け、成長し続ける。そして、どんどん勝手に殖え、最後には周囲の大切な組織を壊してしまう。正常な細胞ではこのようなことはないという。正常とは、ブレーキとアクセルが正常に機能することを言う。
今の日本は、増殖を一旦終えて、落ち着く時にきたように思う。「成長、増殖がすべて」と言って、休むことなく走り続けた日々を静観し、これからどう生きるのかを考えたい。党首たちは、まるで刺激的なコマーシャルを聴いているように演説するが、そうだろうか。百歩譲って「~ノミクス」でさらなる成長が叶っても、それが私たちを幸せにするのか。落ち着いて考えるべきだと思う。
「成長しなくても良い」と言っているのではない。人間は生涯成長し続ける。だが、成長にもいろいろある。成長ではなく成熟ということもあって良いし、増殖を終えた細胞があり、新たな細胞があってよい。
さらにリベラルと自称する人々が案外「自由(リベラル)」ではなく保守的であることにも驚く。九条を守ることには賛同だが、次の時代をどうするのかもっと聞きたい。イエスは、こんな謎めいたことを言う。「貧しき者は幸いだ」(ルカ六章)。「自分の命を救おうと思う者はそれを失い、わたしのために自分の命を失う者は、それを見いだす」(マタイ一六章)。一体、何が幸せなのか。それを問うことなしに、今回の選挙に臨むことは大変危険だと言わざるを得ない。

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