社会

12/24巻頭言「坊主専門梅田理髪店―相談ではつながらない」

「まさか自分がホ―レスになるとは思ってもいなかったですね」。生笑一座(ホームレス体験を伝える一座:『生きてさえいればいつか笑える日が来る』が由来)の新メンバーの梅田さんは笑顔でそう語り始めた。「こんなん言っていいかわからんけど僕は抱樸のお葬式がいちばん好きやね」。会場は聞き入っていた。梅田さんは炊き出しで散髪ボランティアをされている。梅田さん曰く「坊主専門理髪店」。誰でも坊さんになれる理髪店だ。南無阿弥陀仏。梅田さんは言う。「散髪をしているといろいろな話が聞けます。野球の話しとか、テレビの話しとかしているうちに自分のことを話し始める人がいる。そこから相談が始まったりしますね『相談窓口』にはあんまし行かんね。『相談』って結構ハードルが高いと思うんですよ。散髪しながら話を聞いて必要なら抱樸の支援員につなげます」。
「相談ではつながらない」。これは先日YouTube抱樸チャンネルで対談させていただいたD×Pの今井紀明さんのことばだ。今井さんは若者に対する支援をされてきた。従来の「対面式」や「電話相談」では若者にはつながらないという今井さんは言う。それは「若者の文化を理解していない」からだと。「文化」とは?
「若者が使うコミュニケーションツールはSNSであり電話じゃない」ということか。そういう「文明の利器」の話ではない。「文化」とはいえ高尚な話でもないだろう。彼らが何を考え、何を大切にし、何に喜び、そして何を嫌がるのか。彼らの生き様というか実相、それが「文化」だと思う。それを理解しないで「こちらのスタイル-文化」を押し付けても上手くいかない。「若者の問題」ではなく大人の問題であり、傲慢な(少々言い過ぎだが)専門家や役所の「文化」が問題なのだ。
「よおーし、相談するぞ」という気持ちになっている人はともかく、そんな気持ちになれない人は多い。それどころか自分が「ヤバイ」と思っていない若者も多い。だから当然「相談」には来ない。相談窓口では専門職が規定の帳票に従い聞き取っていく。氏名、生年月日、住居、本籍地、履歴、家族関係、健康状態、経済状態等々。若者にはそんな「文化」がない。匿名性の高いSNSにおいて自分のことを赤の他人に全部を言うということは彼らの「文化」ではない。だからウザい。若者ではないが還暦の僕自身「そんなことはどうでもいい」と思ってしまう。まず「文化」を理解し、つながることだ。先に書いた「自分の危機」に気付いていない人がそれに気づくには何よりも「対話」が必要なのだ。話題はなんでもいい。最近見たネトフリの話題とかなんでも。ともかくいろいろ話していくうちに「自分のこと」を話す、かも知れない。そして本人が必要を感じた時、相談が始まる。
梅田さんの坊主専門理髪店はそれをやっている。若者ではないがおじさん相手だが。坊主専門は何とかしてほしいが散髪でつながり上手くいけば相談が始まる。「相談ではつながらない」が散髪ではつながる。今井さんのことば通りだ。敷居の高い相談窓口が多い中、坊主専門梅田理髪店が果たす役割は大きい。
文化を理解すること。それは相手を大切にすること。今「支援現場の文化」が問われている。

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