未来おっさん:福岡市博多区のチラシデザイン・印刷担当者サイト

【3.色弱デザイナーが出来るまで】どこへ就職しよう…。雇われ社長の逮捕劇。

コンビニで、とりあえずバイトした。
年齢は誤摩化した。

まだ、学生とウソをついた。
釣り銭が違っているので、気をつけるようにと、バイト全体に話があった。
年下のチャラい学生が、「オレは間違えてないすよ!こういったバイトは長いっすからね。」と聞こえよがしに言う。

オレが間違えているって事を暗に匂わせながらニヤニヤしている。
既に、年を誤摩化している罪悪感から、何も聞こえていないふりをした。

そうこうしている間、就職活動は続けていて、デザイン事務所の面接を受けたが、返事は返って来なかった。
電話をしてみたが、返事はもらえなかった。

イベント会社に面接を受けた。
出来たばかりの会社だった。

とりあえず、採用されることとなった。
イベントを1回程開催したがそれで終わり。
企画を立てる人間が、逮捕されたのだ。
業務上横領。

逮捕された雇われ社長の名前を、桜井と言う。

恰幅の良いやくざのような50絡みのおじさんが「代表」。
もう、その代表の名前も忘れてしまった…。
したりがおで、「オレは「代表」桜井は「社長」見る奴が見れば、桜井は雇われで、「代表取締」ってついてるオレが社長ってわかる。」と話していた。

桜井さんが逮捕される前、会社ではいろいろな事が起こっていた。
中止になったイベントを仕切っていたバイトが、キャンセル料を払ってもらいたいと事務所に来たりした。
そもそも、様々な人間の欲が、剥き出しになった職場だった。
イベントを仕切っていたバイト君は、自分がイベントを仕切れる人間であるということを知らしめたくて、自分の名前でイベント会社と勝手に契約をしていた。ところが、そのイベントが開催されず、キャンセル料を支払わねばならなくなった時点で、その事が発覚し、双方の言い分が紛糾する。
勝手に、自分の名前で契約を進めて、トラブルを起こした。
自業自得だ。
会社の名前でなく、自分の名前で、人の金で、名誉欲を満たそうとした報いだ。
NTT勤務の親父を持つ、浪人生のお坊ちゃんバイトだ。
受験から逃げて、イベントで自分のセンスを認めて欲しいだけの鼻持ちならない欲まみれの奴だった。

女子アルバイトも雇っていたが、給料が支払われていない事に関して、兄貴からの電話が罵声でひっきりなしにかかって来ていた。

桜井さんは、横領をしたと言われている元職場から、「起訴する」と言われ、日々元気が無くなって行く。
やくざのような代表は、横領した請求金額を、某資産家の奥さんに近づき、金の工面をしてもらえと唆していた。
逮捕の前1ヶ月くらいの事だ。

グズグズの欲が渦巻くどうしようもない職場だった。

桜井さんの借金を中心に、そのイベント会社は動いて行く。
そして、更にバブルが崩壊し、先物に手を出していた『代表』が、先物取引の会社相手に電話で怒鳴り散らしていた。
追証ってなんや!そげなこと、全く聞いとらんぞ!!怒鳴りながら、椅子から転げ落ちる。
座り直して、頭を抱え込んでいる。

各々で、利益が出ることを考えていかねばならなかったが、ちぐはぐな計画がうまくいくわけもなかった。
結果はそうであっても、大変な不幸が降りかかってくると、皆でなんとかしようという妙な連帯感が出来る。
新興宗教の内部のようだ。

やくざのような風体をした『代表』は、その間も、儲かるという話を聞きつけて、ダイヤルQ2(キューツー)という課金型の電話サービスに手を出す。
いわゆる、課金型のエロ電話で、録音されたストーリ仕立てのエロゲームで女性のあえぎ声を聞くサービスである。
1分間に、100円とか300円とか課金され、その金額の何割かが、利益となる。
子供がQ2にハマって社会問題になるくらいに爆発的に売り上げを伸ばしていた。
逮捕される前の桜井さんは、追いつめられた顔で、金になることだったら、何でもやってやると呟くようになっていた。

私自身は、そのダイヤルQ2に対して嫌悪感を隠そうとせず、桜井さんにも、絶対真面目な方法で稼げるようになります!こんないかがわしい仕事なんかやらなくていいように、仕事は絶対に選ばないとダメですよね!と言い放っていた。

桜井さんは呟く。
そうだね、こんなクソみたいな文章。
最低で、何の役にもたたん。
と、そう言って苛立を隠そうとしなかった。

桜井さんは、作家志望だった。
作家志望の人間からすると、こんな劣情を煽るシナリオの作成は、クズみたいに見えるんだろうなと思っていた。

桜井さんが、外出された後、事情通の事務員さんが言った。
あのシナリオ、きっと桜井さんが書いたんよね…。
だって、あのヤクザみたいな社長に、僕は書きません、こんなクズみたいな文章!なんて、言えないじゃない?
桜井さん、あの文章を書いたっていうの、私たちには隠しておいてくださいって、きっと、社長に頼んでいたんだよ。
そう言った。

思い当たるふしがあった。
シナリオの話をしている時の、社長のニヤニヤ笑い。
こいつ、良くそんなウソをつけるな、カッコつけやがって…。
と、言わんばかりの表情。

第三者が作った体をとっていた桜井さん。
気が弱くて、周囲からの侮蔑に耐えられなかったのだろう。
そして、自分がいちばん愛する文章の世界で、一番嫌悪感を抱く文章を書かされる屈辱を味わいながらこぼした言葉。
「金になることだったら、何でもやってやる。」
その言葉だったのかもしれない。

桜井さんは逮捕された。
事務所に戻って来る階段を一歩上がろうとした時に、肩幅の広い男二人に車の中に連れられて行った。
その男達は、刑事だった。

逮捕されても、会社は動いて行かねばならない。
その頃、高速道路でかなりの売り上げを立てているという『小籠包』が出始めの頃で、その取り扱いを事務員さんと一緒に、お願いに行った。桜井さんの知り合いだった。

事務員さんは、もともと某楽器店で働いていた音楽短大出身の女性で、お洒落で綺麗な人だった。
小籠包の社長は、いやらしいニヤニヤした目つきでその事務員さんを見ているのを隠そうとしなかった。
そして、、桜井さんが逮捕された後、「あんたんとこの社長、逮捕されとるね!あんた、社長の愛人やろ?オレが面倒見てやろうか?」と電話がかかって来た。

みんな、バブルで頭がおかしくなった時代だったように思う。
逮捕された桜井さんを、保釈金を積んでもらって出す計画をヤクザのような風体の社長が考えていた。
桜井さんは、金持ちの資産家の奥さんと、いい仲になりそうだという話を『代表』にしていた。
その資産家の奥さんである、愛人に保釈金を出してもらおうと、画策していた。

どうでも良い話だが、「私たちよりも、その愛人の思いの方が純粋よ」などと、話す事務員さんの顔を見ながら、どれも汚い話だ。そこに純粋さなんてあるか。と感じていた。
その愛人は、48歳だった。
桜井さんは、38歳。
私は、当時の愛人の年と同じになり、当時の桜井さんの年齢を越してしまっていることに今更ながらに気づく。
今も、自分が、大人になった気持は微塵も無い…。
戸惑いっぱなしだ。

しばらくして、桜井さんとの面会に熊本北署へ行く。
愛人を連れて。

やくざのような『代表』は、一見人当たりが良く、愛人に対してニコニコと対応していた。
荒事、犯罪には強いだけに、面会の段取りもお手のものだった。
「桜井もね、あいつ駆け引きが上手やけん、最初は旅行に行っても、寝らんやったらしか。次に旅行に行った時には寝たらしかばってん、焦らしたとやろね!わはは!」前日、上機嫌で事前情報を伝えるように話していた。

熊本北署は、某有名デザイナーが作った小綺麗な建物だ。待合ロビーで待つ。
愛人と、二人で合皮の平たい椅子に座って大画面のテレビを見ていた。
他に視線を向けるものがなかったから。
テレビの画面には、イランイラク戦争勃発。現実味の無い、SFのような照準がターゲットを捕捉する場面や、花火の様に上がる対空砲火、艦砲射撃のシーンが流れているテレビをぼーっと、他人事のように眺めていた。
1990年のことだ。

初めて、警察での面会を体験したが、その頃の記憶は、ほとんど無い…。
桜井さんの照れくさそうな顔だけが記憶に残っている。
何を話したか覚えていない。
愛人は、泣いていた。

そもそも、何故拘留されているのか。

桜井さんは、もともと、某高級外車の販売店に勤務しており、バブル期に、トップセールスを誇っていた営業マンだった。
しかし、その実、種明かしをすれば、値引きしてはいけない高級車を自分の判断だけで値引きして販売していたというお粗末なものだった。それを知ってか知らずか、高級外車の販売店は、入金されていない値引き分を、桜井さんに請求する。

その値引額は、すぐに払える程の額ではなかったようで、桜井さんは、その会社からかかってくる電話にも出なくなり、家迄取り立てにくる社員に対しても居留守を遣い、刑事訴訟という結果になった。

他人のものを勝手に安く売るのは、もちろん、横領だ。
値引かねば売る事ができなかった能力の足りなさと、売らねばいけないという切迫感とが、そういう事態に自分を追い込んで行った。
単純に考えれば、保身と気の弱さが生んだ逮捕劇だった…。

何一つ、懐に入れていない、得をしない犯罪があるということを、その時に知った。
その会社では、何も変える事ができなかった…。
何も変える事ができずに、知らない間に、その場所には行かなくなった…。

事務員さんは、こんなとこ少しでも長くいちゃだめよ。と言っていた。
自分は、自分の力では、誰も救えない事を、嫌という程思い知った…。